カラスと少女

2/2
前へ
/36ページ
次へ
   重く軋む扉を押し開けると、むせ返るほど熱い空気が押し寄せて来た。  思わず顔をしかめながら、屋上へ一歩踏み出す。  灼熱の日差しに焼かれた、コンクリートからはゆらゆらと、陽炎(かげろう)が立ち上ぼっている。  際まで歩いて行くと、金網越しに地上を見下ろし、ぺたりと座りこむ。  尻と太ももの肉が、焦げそうな気がした。  ビルの屋上はどこも代わり映えがしないのに、ここにはなぜかカラスが多い。 「お前達は気楽でいいね」  暑さを物ともせず、コンクリートの隙間をつつくカラスに、なんとも言えないため息を吐く。 「疲れちゃったな」  金網の破れ目から足を投げ出し、ぶらつかせてみた。  空から吹き下ろすように、意外と優しい涼風が、足を撫でて行く。 「もう、終わりにしちゃおうか……」  真っ黒な瞳がこちらを見ていた。  一羽のカラスは目が合うと、思案するように首を傾げ…… 「ガアッッ」  一声高らかに鳴いた。  そのどうでもよさそうな声に、思わず笑みが零れる。 「しょうがない。もう少し生きてみるか……」  空は霞んでどこまでも高く、ビルの屋上は馬鹿みたいに暑い。  そんな夏の午後。  
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加