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洗濯物
「ちょっと! おばあちゃん! 雨! 雨降ってきたわよ!」
低い塀越しに見える隣家の庭に、一人分の洗濯物が干されているのが見える。
ご近所同士の助け合いで一声かけると、すぐに、庭に面した和室の外窓が開く音がした。
お隣さんはこれでよし。自分の家の方を急がないと。
二階のベランダに駆け出て、家族四人分の洗濯物を慌てて取り込む。どうにか本降りになる前に片付き、一息ついた瞬間に気づいた。
大人ののおばあちゃん、先月亡くなったんだった。
でもさっき、確かに洗濯物が干されていたし、取り込むために窓を開ける音もした。
気になり、隣の家の庭先を覗く。当たり前だけれど洗濯物はないし、窓が開けられた様子もない。
雨が降ると、よくお隣に声をかけていたから、洗濯物が干されていると思い込んでいたのかな。
先入観て凄いなぁと、その時はこれで終わった。
でも。
いつかのように降り出した突然の雨。
お隣は空き家だと知っているから声をかけることはない。
でも、自分の家のを取り込んで隣家を見たら、庭に、雨に打たれるがままの洗濯物が干されていた。
いつものように声をかけてあげるべきかどうか、今、とんでもなく迷っている。
洗濯物…完
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