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父の実家から手紙が届いた。
それは、父の死を告げるものだった。
一カ月ほど前。
今まで一切の交流もせず、話題にすらならなかった父の実家から突如手紙が届いた。
それを読んだ父は「すぐに戻る」と言って出掛けたが、一カ月の間音信普通となった。
やっと連絡が来たかと思えば父の訃報。
母はただ泣いていた。
父と母は駆け落ちだったという。
父は地元では名家の長男で婚約者もいたとか。
その全てを捨てさせた自分には何も言う権利はない、と母は泣いていた。
だけど、死因や葬儀の日取りすらも書かれていない文面に、納得できるはずがなかった。
手紙を握りしめ、差出人の住所を頼りに父の実家へと向かって、僕は家を出た。
電車を乗り継ぎビル街から住宅街へ、そして田園風景へと窓から見える景色が変わる。
降り立った駅にはまだ人はいたけど、バスに乗り込んで走り出せば、人の姿はほとんど見えなくなる。
驚いたのは、父の実家はその世界では知らぬ人はいないと言われるほど有名な和琴職人の家系だという事。
訪ねてくる人も多く、バスの運転手さんに道を聞けば、慣れた様子で教えてくれた。
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