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辺鄙な山の前でバスを降り、山奥へと道に沿って進めば、厳格な空気を纏う日本家屋が姿を現す。
午前中に出発したのにもう日は暮れはじめ、瓦屋根も頑丈そうな門扉も赤く染まっている。
その門扉を叩くと、父の面影を持つ男が顔を出した。
「申し訳ないが、今は注文も弟子入りも取れる状態では……」
「僕は春日咲隆義(カスガサキ タカヨシ)の息子、春日咲隆道(タカミチ)と申します。父の事で話がしたくて来ました」
「……君が、兄の……中へいらっしゃい」
言葉を遮ってそれだけ告げれば、男は表情を固めてから僕を招き入れた。
「私は君のお父さんの弟、春日咲文義(フミヨシ)と言う」
「僕の叔父さんって事?」
「そうなるね」
叔父さんがいるなんて聞いた事もなくて、僕はどう反応していいかもわからず叔父さんの後をついていく。
広い屋敷には叔父さん以外に誰もおらず異様な空気が漂っており、案内された部屋には眠るように横たわる父の遺体があった。
「父さん!」
駆け寄って思わず手を握る。
ひんやりと冷たい手。
だがその冷たさ以上の異常に気がついた。
掌を返して見れば、父の指の腹は肉が抉れ、骨が剥き出しになっている。
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