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ガールはふと目を開けた。
テーブルには鏡やハサミが投げ出されていて、あぁ眠ってしまったのかと理解する。さっき――――日付が変わったので正しくは昨夜だが、約束通りチハルの髪を切ってあげてたわいもない雑談をし、そのあとベッドに転がったところまでは記憶がある。
ティーチャーの帰りを待っているうちに、そのまま眠ってしまったのだろう。待ち続けていた想い人は、今は正装のまま隣で寝息を立てている。
そっと床に滑り降りて窓辺に向かった。
ティーチャーを起こさないように細くカーテンを開けると、真昼と呼んでも過言ではない明るい景色が広がっていた。
「……朝ご飯」
ふと気づいてつぶやくと、ガールは玄関のラックを振り返った。
そこにはルームサーヴィスが二つ、きちんと乗せられていた。
熟睡していた自分たちを気遣って、チハルがマスターキーでドアを開けて届けてくれたに違いない。
ありがとう、と口の中で言って、ガールはティーチャーの体をそっと揺すった。
食器の返却くらいはチハルの顔を見てしたかった。そのためにはここで寝ている彼にも朝食を食べてもらわなければならない。もうブランチとも呼べないような時間だけれど。
「先生、起きてよ。朝ご飯を食べなきゃ」
低血圧のティーチャーは簡単には目を覚まさない。うー、あー、と言いながらも実際はまだ夢の中らしく、ガールが手を止めた隙に寝心地がいいように寝返りをうった。
「もう、せんせ……」
こちらを向いた彼の顔を見た瞬間、ガールの苦笑は凍り付いた。
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