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なんてやつれた顔だろう。
おそるおそる指を伸ばして、疲れが色濃く残っているティーチャーの頬にふれて、そっとなでてみた。
この街に来てから彼はずいぶん痩せた。
自分もこの恋が始まってから体重がかなり落ちたし、体調を崩しがちになったけれど。
でもティーチャーは、本当ならなんの関わりもなく生きていけたはずだった。
自分の街で、大好きな教師という仕事をずっと続けて、幸せに。
「……あたしのせい」
自分なんかと出会わなければ、とガールは思う。
自分が恋をして苦しんだりしなければ、優しいこの人はその優しさに見合うだけの幸せを手に入れられたのに。
文章の翻訳や手紙の代筆、暗号の読解。
自分がこの部屋でぼんやりと過ごしている間にも、この〈砂漠の果て〉で生きていくために、彼はあちこちで仕事を探している。
夜中にふと目を覚ましたときに見つける、小さなライトだけで机に向かっている、淋しげな背中。
ティーチャーの頭脳はこの地域では一目置かれていて、たまに学を授けてほしいと依頼されることもある。
そうして誰かに文字や算術を教えているときが、一番幸せそうに見えた。
けれど―――もう戻ることはできない。
今の生活を捨てることはできない。
幼い頃に両親を亡くし、唯一の拠である彼を今更失うなんて耐えられない。
ティーチャーが微笑みかけてくれるから、自分はここに存在していられるのに。
「先生……」
愛する人を蝕むことでしか生きられない自分の弱さを、ガールは心の底から恨んだ。
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