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「マミー、サン。食器の回収だよ」
声をかけると、マミーは二セットの食器を手に二〇五号室から出てきた。
そのままカフェに向かうのか、チハルと一緒にドアを閉める。
「サンはいいのか?」
「あの子は一人が好きなの。一人でイピルーを吹いている方がね」
ほほえみながら答えるマミーと一定の距離を保ちながら、チハルは並んでカフェに降りた。
ついでに何か飲むかと注文を訊いて、希望されたカプチーノを作り始める。
カウンターに頬杖をついたまま、マミーがふと訊ねた。
「なんだか二〇一号室(あっち)が騒がしかったわね。他の人たちは慣れっこのようだけど」
「ああ、ガールのヒステリーさ。自分の理性と感情の板挟みになって耐えきれなくなると起こす」
泡立てたミルクを注いだカップをマミーの前に置いて、チハルもカウンター内の椅子に腰掛けた。
こちらの言葉を受け、彼女はぴくりと眉を跳ね上げる。
「恋をしているの?」
「鋭いね」
あえてぼかした言い回しをしたのだが、チハルは彼女の発想転換の早さに感心して、あっさりと認めた。
「ガールはオレと同じ十七だけど、恋をしている。あの子はまっすぐだから、完全な身勝手になりきれないんだ。だから自己嫌悪の発作を起こすのさ」
マミーの肩越しに視線を向け、チハルは声をかけた。
「そうだろ、ティーチャー」
「そうさ」
驚いて振り向いたマミーに「初めまして」と挨拶し、ティーチャーはその隣に座った。
「彼女はマミーだよ。コーヒーでいいか?」
チハルの質問にうなずいて、彼は疲れたように笑った。
ガールがヒステリーを起こした後はいつもそうであるように。
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