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「それで彼女を抱いたんですね。そして街の行政局に知られてしまった」
マミーが引き継いでくれたので、ティーチャーはため息をついてうなずいた。
チハルは冷めてしまったコーヒーを煎れ直そうとカップに手を伸ばしたが、ティーチャーが片手でそれを制し、目で礼を言うとまた一口飲んだ。
「僕も舞い上がっていたんでしょうね、あんなに想われていたことに。冷静になって考えればどんなに危険なことか分かったはずだし、あの子の将来を思えば突き放すことだってできたはずです」
自分が街を追われ職を失ったことに対して、大きな罪悪感に苦しんでいるガール。
もし、なんて都合のいい考えだけれど、ティーチャーはあのときの自分を責めずにはいられない。
自分が突き放さなかったせいで、彼女は今も悩み苦しんでいる。いっそ嫌われてしまえばよかったのに。
彼女を愛することはできない。
けれど今の自分は突き放すこともできない。
「ガールは僕の感情を知っています。知っていても気づかないふりをしています。ヒステリーを起こすのは、罪悪感に潰されかけたところで、あるはずもない愛の言葉を僕からもらってすがるため……」
ティーチャーはコーヒーを飲み干した。
「だから僕はせめてもの償いに、彼女に嘘をつき続けます。そして彼女はそれを信じ続けます。今のあの子は僕を失ったら本当に独りになってしまうんです。だから本当に彼女を愛してくれる存在が現れるまで、僕は嘘つきになります」
そうして……淡くほほえんで、結んだ。
「これが偽りでも平穏だから。いびつで歪んでいても――――《愛》だから」
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