秋桜

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私は、昔から鈍くさい人間だった。 何をやるにも気がつくと他人より一歩遅れてしまい、面倒だけを抱え込む。 のろまで不器用、要領が悪く、損ばかりしている。 「はぁ…」 家に帰るなり、バタリと倒れ込んで深いため息をつく。 ようやく私にも巡ってきた恋のチャンス。展示会で面倒な自社ブースの説明員を押し付けられた私だったが、一緒に説明員をやることになったのが、社内でもイケメンと評判の水原主任。 私は、珍しく張り切ってなんとか水原主任に気に入られようと頑張っていた。 しかし、元々がグズでのろまな私、何と展示会開催前日に展示用の試作機を壊してしまったのだ。 私は説明員の役を外され、会社で上司の船堀主任から厳しく叱責されて落ち込みながら過ごした一日を終えて帰ってきたところだった。 展示会の開催期間は三日間、展示会が終わったら打ち上げをしようなんて話しもしていたのに、全てが台無しになってしまった。 「あーあ、水原主任も怒っているんだろうな…明日からの展示会、試作機が壊れたままで説明しなきゃいけなくなっちゃったし…」 私は、落ち込んだ気分でもう一度ため息をついた。 翌日、私は会社を休んだ。 いつも失敗ばかりの私とは言え、今回ばかりはさすがに気分が落ち込んで、どうしても出社する気になれなかった。 休むと伝える電話も気が重かったけど、こればかりはやらないわけにはいかない。 電話に出たのは、事務の山田さんだった。 「伝えとくよ。お大事にね」 山田さんは言葉少なにそう言って電話を切った。 私のやらかした失敗を知っているのかもしれない。なんとなく口調も乾いていた。 翌日も、そのまた翌日も私は会社を休んだ。 「もう私はダメだ…」 私は、辞表を書いた。 書きながら涙が零れた。 こんなはずじゃなかったのに… 翌日、泣きながら書いた辞表をバッグに忍ばせて、私は出社した。 船堀主任は何も言わずに受け取るだろう。いつも失敗ばかりの私、引き留める理由など何一つないのだから。 「おはよう!」 俯きながら歩く私の背中に明るい元気な声の挨拶が投げかけられた。 私は振り返るのを躊躇い、その場で硬直した。 間違いない。声の主は水原主任だ。 展示会のこと謝らないと… 思考だけが頭の中でグルグルと回るものの、実際の動きは固まったままで震えている、そんなどうしようもない状態でいる私の肩を、水原主任がポンと叩いた。
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