秋桜

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「会社、休んでたんだってね。船堀くんも言い過ぎたかなって気にしてたよ。大丈夫、展示会は無事に終わったから」 水原主任は優しい笑顔を浮かべながら言った。 私は溢れそうになった涙を我慢しながら慌てて頭を下げるとトイレへと駆け込み、個室の中で咽び泣いた。 しばらく泣いて、少し気持ちが落ち着いたところで、私はまたやってしまったことに気がついた。突然逃げ出した私に、水原主任は気分を害していることだろう。 でも…もういいんだ。 どちらにしても、もうこの会社を辞めるんだから。決心はついている。 泣いて崩れてしまったメイクを整え、これ以上、気持ちが揺らがないように辞表をカバンから取り出してギュッと握り締めながらトイレから出ると、そこには心配そうな顔をした水原主任が立っていた。 水原主任は、私の手に握られていた辞表を見て小さくため息をついた。 「だいぶ思い詰めているみたいだね」 水原主任は、優しい微笑を浮かべた。 ポケットからスマホを取り出し、何やらやっていたが、すぐに私の顔を見て笑った。 「よし、行こう」 「えっ!?ど…どこにですか?」 「いいから、いいから」 水原主任は、スタスタと歩き出した。 私は慌てて後を着いていく。 「えっ…ええっ!?」 水原主任は、エレベータで一階に降り、エントランスから外に出た。 社外に出ることに私が躊躇すると「ほら、早く」と急かす。私は戸惑いながらも水原主任の後を追った。 電車に乗る。 「あの…どこに行くんですか?」 私は何度か質問したが、水原主任はニコニコと笑いながら何も答えない。 何度か電車を乗り換え、気がつけば車窓から見える景色は都心のビル街から長閑な田園風景に変わっていた。 「次の駅で降りるよ」 水原主任はそう言って、次の停車駅で降りた。 駅前のロータリーでタクシーを捕まえて乗り込む。 「住所言いますね」 水原主任の言った住所をカーナビにセットしてタクシーは走りだした。 田んぼ、畑、林…ガタガタの田舎道をタクシーは走る。 十五分くらい走ったところでタクシーが停まった。 そこはそれまで走ってきた光景とあまり代わり映えしない場所だった。 ただ違うのは、すぐ近くに公園が見える。 ブランコに滑り台、鉄棒。特別なものなど何もない普通の公園だ。 わざわざ電車を乗り継いで、こんな普通の公園に来る意味がわからなかった。 「俺のとっておきの場所へ案内するよ」 水原主任はニコッと笑った。
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