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美鈴は急いで職員室に行き、担任に日誌を渡した。
その際、リナのことを聞かれたが、美鈴は上手く誤魔化した。
「待たせちゃってごめんなさい」
先に玄関で待っていた翔に声を掛ける。
翔は美鈴に気付くと耳に付けていたイヤホンを外した。
「別に、そんな待ってねぇよ」
さりげなく翔は美鈴の持っていたスクールカバンを持った。
美鈴は 「ありがとう」とお礼を言い、翔の隣に並んで歩いた。
玄関を出ると冬特有の冷たい風が美鈴の頬を切る。
吐き出した息が白くなって虚空へと消えていく。
美鈴は両手に息を吐きながら困ったように言った。
「ん…やっぱり寒いね、私も日下さんみたく暖かい格好してくれば良かったよ」
マフラーくらいならしてきても良かったと美鈴は後悔する。
翔は美鈴の口からリナの名前が出たとことに対して内心面白くないと口を尖らせた。
「別に、アイツは防寒じゃなくて“可愛い”から着てるだけだろ」
「そうだね、よく似合ってた」
美鈴の屈託無い笑顔に翔の心境は複雑だった。
「お前は良いヤツ過ぎんだよ、バカ…」
その細く、小さな声は美鈴の耳に届かなかった。
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