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一人大騒ぎしてしまった自分が恥ずかしくてたまらなくなった。
「そう、なんですか……」
「なのにお前がケイの方がいいのかとか、キスしてくれとか誘惑するから……」
「ゆ、誘惑!?」
神住はいたずらげにベッと舌をだす。
「もうしないから」と言うと、くるりと背を向けて歩き出した。
蛍はその背を慌てて追いかける。
「待ってください、もうしてくれないんですか?」
歩きながら、神住が「え?」と振り返る。
思わず出てしまった本音に恥ずかしくなりながらも、蛍は意を決していった。
「神住君となら、こういうこと、したい、です」
神住はキョトンと目を丸くさせる。
そして優しく笑った後、いつもの意地悪な顔をした。
「じゃあ、今から家来る?」
その一言に。
神住の冗談とは露知らず、蛍は駅までの道すがら、ずっと悩むはめになるのだった。
「あの、それは気が早いというか……心の準備がまだと言いますか……」
「なんで?兄貴もいるし、夕飯作りに来てほしいだけだけど」
「!?」
「なに期待したの?やらしー」
「ふぐ……!」
「でもそうだな、後2㎏ぐらい痩せたら考えてあげる」
「ひどいです!もう知りません!」
「はいはい」
そう言い合いながらも繋がれた手は、いつもよりもギュッと強いものだった。
この日、まるで魔法のキスで呪いが解かれたかのように、蛍の中のケイが、消えたのだった。
番外編 おわり
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