episode 1 悪夢の始まり

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彼はこう思っている。 おもちゃを見付けた、と。 半泣きになりながら神住を見上げると、神住はニヤリとほくそ笑んでいた。 背筋がぞくりとした。 「玉置さぁ、なに?お前腐女子なの?」 「なっ、なんの事でありますか?」 「ほら、その下にあるもの見せてみろよ」 「なっ、なんの事でしょう?」 「よくその状態でしら切ろうと思えるな……。いいから見せろって」 「……嫌です」 「見せろ」 「おっ、お断りいたします……!」 「見せなかったら、ここの生徒会の連中に告げ口するぞ。玉置 蛍さんが学校にいかがわしい物持って来てますって」 「………ぐっ……」 「あっ、ゴキブリ」 「ひぃぃぃぃぃ!」 地面から飛び退くと、すかさず神住が同人誌を拾い上げた。 騙されたと気付いた所でもう遅い。 声なき悲鳴を上げる蛍を他所に、神住は手に取った同人誌をペラペラ捲った後、呆れたように嘆息してそれを放り投げた。 「お前、よくこんなもん描けるな。男同士とか、普通に引くぞ……」 言葉がグサリと蛍の心に突き刺さる。 自分の嗜好作品を見られる事は、ここで全裸になるより恥ずかしい事だ。 いや、作品を見ない代わりに全裸になれと言うなら喜んでなるだろう。 それ程までに、ヲタクでない人に作品を見られるのは苦痛でしかないのだ。 そしてそれを見た上に、汚い物のように放り投げられた。 自尊心が踏みにじられたような気がした。 いつだって神住 太一はそうだ。 蛍の好きな物、気に入った物を全てバカにしてこけ下ろしていく。 こんな苦痛は、高校二年になった今でも、そしてその先も、続いていくのだろうか。 「大体、男と付き合った事もないお前が、男の何を知ってるってんだよ。男のナニも知らないのに」 じわり、と目頭が熱くなるのがわかった。 頑張って描いた同人誌を拾い上げながら、泣くなと自分に言い聞かせる。 そもそも、ヲタ友に早く見せたくて学校に持って来た自分が悪いのだ。 走った自分が悪い。 神住 太一にぶつかってしまった自分が悪い。 「すみません……」 気付いた時には謝っていた。
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