500人が本棚に入れています
本棚に追加
彼はこう思っている。
おもちゃを見付けた、と。
半泣きになりながら神住を見上げると、神住はニヤリとほくそ笑んでいた。
背筋がぞくりとした。
「玉置さぁ、なに?お前腐女子なの?」
「なっ、なんの事でありますか?」
「ほら、その下にあるもの見せてみろよ」
「なっ、なんの事でしょう?」
「よくその状態でしら切ろうと思えるな……。いいから見せろって」
「……嫌です」
「見せろ」
「おっ、お断りいたします……!」
「見せなかったら、ここの生徒会の連中に告げ口するぞ。玉置 蛍さんが学校にいかがわしい物持って来てますって」
「………ぐっ……」
「あっ、ゴキブリ」
「ひぃぃぃぃぃ!」
地面から飛び退くと、すかさず神住が同人誌を拾い上げた。
騙されたと気付いた所でもう遅い。
声なき悲鳴を上げる蛍を他所に、神住は手に取った同人誌をペラペラ捲った後、呆れたように嘆息してそれを放り投げた。
「お前、よくこんなもん描けるな。男同士とか、普通に引くぞ……」
言葉がグサリと蛍の心に突き刺さる。
自分の嗜好作品を見られる事は、ここで全裸になるより恥ずかしい事だ。
いや、作品を見ない代わりに全裸になれと言うなら喜んでなるだろう。
それ程までに、ヲタクでない人に作品を見られるのは苦痛でしかないのだ。
そしてそれを見た上に、汚い物のように放り投げられた。
自尊心が踏みにじられたような気がした。
いつだって神住 太一はそうだ。
蛍の好きな物、気に入った物を全てバカにしてこけ下ろしていく。
こんな苦痛は、高校二年になった今でも、そしてその先も、続いていくのだろうか。
「大体、男と付き合った事もないお前が、男の何を知ってるってんだよ。男のナニも知らないのに」
じわり、と目頭が熱くなるのがわかった。
頑張って描いた同人誌を拾い上げながら、泣くなと自分に言い聞かせる。
そもそも、ヲタ友に早く見せたくて学校に持って来た自分が悪いのだ。
走った自分が悪い。
神住 太一にぶつかってしまった自分が悪い。
「すみません……」
気付いた時には謝っていた。
最初のコメントを投稿しよう!