すべてはボクと俊との出会いから始まった

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 ボクが美佐と初めて会ったのは、高校二年の夏だった。そして、その肌をむさぼるようになったのは、一応、卒業してから。調教されるように仕込まれた。  それはそれで、とても長い話なるんだけど。  世間一般の出会いなら、絶対にこんな関係にはならなかっただろう。だって、ボク、小野仁は静かで目立たない存在だったから。  ではまず、俊との出会いを語ろう。  若葉が生い茂る頃、二年になり、同じクラスになった松下俊が、バンドを作ると言って騒いでいた。その仲間を募集中とか。  高校二年なんて、大学へ行くための詰め込み勉強、がんばらなきゃっていう意識の高まりとそんな生活に嫌気がさしてくる頃。  それでも二年生のうちならまだ、他のことに打ち込めるという思いだったらしい。  俊は、クラスでも目を惹く存在にいた。くっきりとした顔をしていて女子たちにも人気がある。  噂では、一年の時のバレンタインデーに、クラスの女子全員からチョコレートをもらったということもきいた。  他の男子生徒は、俊のことをうらやましがっていた。  彼と一緒につるんで、注目される仲間に入りたいと密かに思っている奴が多かった。  それで、今回のバンドメンバー募集がいいチャンスって思ったらしい。  けっこうな数の生徒があつまったそうで、いっちょ前にオーディションまで行われたそうだ。 「一介の高校生バンドなのにな。あいつら、何様だと思ってんだ。ちょっとばかし、見かけがいいからって」と吐き捨てるように大宮直樹が言った。  直樹は、ワイワイ騒いでいる俊たちの方からボクの方に視線を移す。  さらに、なんの罪もないボクの弁当から玉子焼きをかっさらって食べている。  ったく、なんだよっ。  けれど、目の前でふてくされている直樹も、彼らのバンドに入りたいと言って、オーディションを受けた一人。  楽器なんか全然やったことがなく、ドラムなら何とかなるだろうという甘い考えでいたそうだ。  わずか、五秒、二、三回ドラムを叩いただけで、即、不合格と言われたことを根に持っていた。 「それって、なんの経験もないのに叩けるとか言った直樹も悪いだろう。向こうは何人も審査しなきゃいけなかったんだし」とボク。  直樹はそう言ったボクにくってかかる。 「なんだよ、仁。それって俺のドラムが時間の無駄だって言いたいのかっ」 「うん、そんなとこだ」とどっちの味方でもないことを示した。 「そんなひどいこと、面と向かって言うなっ。俺にはもしかすると秘めていたすごい才能があるかもしれないって考えてたんだ。それを今回のオーディションで発掘してくれたら未来のスター誕生ってこともありうるだろっ」とニヤニヤしている。 「そりゃあ、無理だろう。相手もただの高校生だぞ」 「なんだよ、仁。いつもは、そうだな、としか言わないのに。なんで今日はそんなに辛口評価なんだ。それともあいつらを庇ってんのか」  別にそんなつもりはなかった。  ただ、思ったことを言っただけなのに直樹に逆切れされていた。  そう言われて気づく、自分の口癖、「そうだな」か。  
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