第1章

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しかし、ひそかに彼女の人気を妬む女優がいた。 佳奈子が人気ナンバーワンに上り詰めるまでその座をずっとキープしていた紅海美栄である。 彼女はなんとか一ノ宮緑の失脚を狙い、彼女のスキャンダルを探していたが、ついに突き止めることが出来なかったので、自ら彼女に手を下すことにした。 舞台に細工を施して、公演中に彼女の立っているところから奈落に落ちるようにした。 仕事人には大金を渡し、口裏を合わせてあくまで事故に見せかけるように綿密に打ち合わせをした。 本番中に不意に佳奈子の足場は急に口を開き、彼女は7メートル下の床に叩きつけられ、その床の上には鋭い金属が置かれていた。 彼女は大ケガをして、再起不能と雑誌や新聞やテレビで発表された。 顔は修復不可能なほど破壊され、右腕と左足は切断された。 命だけは辛うじて助かったが、およそ女優業を続けることは不可能だった。 江梨は、佳奈子から自分に戻る時期が来たのを悟った。 佳奈子になった江梨は松葉杖をついて鏡を置いてあるところまで行って元に戻ろうとした。 元の自分に戻るためには二つの方法があった。 違う人間になっていた時間の経過のままに元の自分に戻る方法と、違う人間になった瞬間の時間に戻る方法である。 一回目の時は変身していた期間はほんの数日だったので、彼女は数日後の自分に戻った。変身していた時間は彼女という人間に数日間の成長(老化)をもたらす。 しかし、変身した瞬間に戻る場合は、彼女は別の人間になって何年間、何十年間過ぎようとも変身した人間が死なない限り、何時でも変身時の若い自分に戻れるのだ。 しかし、変身した時より若い時に戻ることだけは出来なかった。 今回は、変身後10年間経っていたので、彼女は変身時の自分に戻ることにした。 その場合は、また違う呪文を唱える必要があった。 彼女は鏡の裏に書かれた文字の中からその呪文を見つけた。 彼女はゆっくりとその呪文をを唱えた。 「ΤΥΦΧΨΩ」
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