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無駄に広い、などというと先代に怒られそうなものだが、山本牧場の敷地は個人経営のそれとしては群を抜いて広大である。
昔育成をやっていたこともあって一週800メートルのコースもあれば、休養馬の為に設けられた砂の角馬場もあるし、果ては放牧地に小さいながらせせらぎもある。
働いている人の数に対してあまりにも分不相応なその施設、面積は、かつてのこの牧場の隆盛を示すと同時に、その現在の没落ぶりをも顕著に現すものであるが。
そんな悲哀を伴う広大な山本牧場の敷地内の、放牧地の中心には、かつてバルクが柴名と調教を積んでいた頃に坂路がわりに使っていた、
結構立派な丘がある。
遠目から見てもわかるくらい高さがあり、登りの勾配も結構きつく慣れるまでは歩いて頂上まで上るのに四分とか五分とかかかるほどで、
ちょっと大袈裟に表現すれば『小高い山』とでも言えてしまいそうな、そんなもの。
その頂上は厩舎兼住居のある所よりもさらに高く、この牧場で一番の高台にあるので、
それこそ放牧地や厩舎、コースといった山本牧場の全てを見渡せる、それこそ展望台とでも言うべき景色のよさがある。
この牧場の全てを見守ることができる、という点においては、ひょっとしたら本来、ここに住居を構えるべきだったのではないかと思うこともしばしばあるくらいだが。
今そこには、樹齢60年にもなる大きなブナの一本木のもとに、
芝山雄一の墓が建てられている。
浮金石を一本、土の上に立てただけの作り。牧場の功労者のそれとしては、質素と言えばあまりに質素な作りである。
が、その落ち着いた黒い光沢と細さを感じさせない存在感は、
飾らずともにじみ出る威厳を感じずにはいられなかった、生前の彼そのものであるよう。
奈落襲撃を怖れた時の都合によって、彼の名前が石に刻まれることはついになかったが、
知る人が『ここが芝山の墓である』と聞けば、見れば、思わず瞬時のうちに納得してしまうような………
そういう、芝山雄一という人間を一目のうちに理解させるような、そんな趣向の墓である。
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