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開襟シャツの胸元に、そっと手を置いた。
柔らかい感触。
じんわりと伝わる体温。
感極まり、田渕は隆起する結衣の胸に頬を乗せた。
が、すぐに身を起こした。
眼鏡のフレームが邪魔だ。
眼鏡を外す。
丁寧に折り畳んで、自分の机に置いた。
特に必要ともしていない「教師の装備」は一切合切遠くへ追いやる。
改めて結衣の双丘に着地する。
うっとりと目を閉じた。
ゆっくり上下する胸。
耳に響く、控えめなトクントクンという鼓動。
恍惚に震えた。
……ああ、なんて神秘的なんだ!!
外科医になりたかった。
人の命を救いたいなどと思ったことはない。
ただ、魅せられたのだ。
この目で見たかったのだ。
確かめたかったのだ。
だから外科医になりたかった。
仕方がないじゃないか、合法的にそれが許されるのは医者だけなのだから。
結衣の胸に頭をのせたまま、目を開いて戸棚に視線を送った。
青と赤が複雑に絡み合った模型が、田渕の目に映る。
生物担当の端くれだ、こんなに鮮やかに色分けされたものが体内にあるわけがないと知っている。
それでも焦がれたのだ。
カエルの解剖もした。
魚も解剖した。
でも見つからなかった。
けれど。
自分に思いを寄せる桃色の心を持つ女子生徒。
滅多にない恫喝に青くなっただろう。
「送ってやる」の一言に色を取り戻し、あの子供じみた口づけに赤く燃えたかもしれない。
そう、今なら。
見られるかもしれないじゃないか。
鮮やかに色づく、青と赤の心臓を。
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