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どんよりとした雲が空一面を覆っている。
湿度の高い空気が、むわりとのし掛かってくる。
バス停にはいつもより学生が多く集まっていた。
普段自転車で通学する者たちが、今後の天候の崩れを考慮して切り替えたのだろう。
遥か南で発生した台風が近づいているらしい。
出掛けに天気予報を眺め、警報のひとつも出ていれば休校になるのに、とため息をついた。
予想コースから若干離れているのと、雨も降りださないこの状況では無理かと諦めて、結衣はバスに乗り込んだ。
乗ってしまえば、身は学校に向かい、思いは田渕に向かう。
ぎゅうぎゅう詰めのバスに揺られ、イヤホンから小さく流れる曲を聞き流しながら、窓の外を見つめた。
バスが三つ目の停留所を出た頃、雨粒が窓を叩き始めた。
バスが大きく揺れる。
若干風も出てきたようだ。
毎年どこかしらに上陸する台風だが、結衣はそこまで台風に恐怖を感じたことはなかった。
風の咆哮は迫力だし、押し流されてしまいそうになる感覚は割と楽しい。
雨さえなければ、特に困ったことなど感じたことがなかった。
ガラス窓に叩きつけられて、べしゃりと形を崩す雨の粒は、次第にその量を増やした。
既に濡れていない所などなくなった大きなガラスに張り付いては、名残惜しそうに筋を描いて落ちていく空の涙に、昨夜見たドラマのワンシーンがなんとなく重なった。
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