青と赤に魅せられて

4/21
前へ
/23ページ
次へ
  どんよりとした雲が空一面を覆っている。 湿度の高い空気が、むわりとのし掛かってくる。 バス停にはいつもより学生が多く集まっていた。 普段自転車で通学する者たちが、今後の天候の崩れを考慮して切り替えたのだろう。 遥か南で発生した台風が近づいているらしい。 出掛けに天気予報を眺め、警報のひとつも出ていれば休校になるのに、とため息をついた。 予想コースから若干離れているのと、雨も降りださないこの状況では無理かと諦めて、結衣はバスに乗り込んだ。 乗ってしまえば、身は学校に向かい、思いは田渕に向かう。 ぎゅうぎゅう詰めのバスに揺られ、イヤホンから小さく流れる曲を聞き流しながら、窓の外を見つめた。 バスが三つ目の停留所を出た頃、雨粒が窓を叩き始めた。 バスが大きく揺れる。 若干風も出てきたようだ。 毎年どこかしらに上陸する台風だが、結衣はそこまで台風に恐怖を感じたことはなかった。 風の咆哮は迫力だし、押し流されてしまいそうになる感覚は割と楽しい。 雨さえなければ、特に困ったことなど感じたことがなかった。 ガラス窓に叩きつけられて、べしゃりと形を崩す雨の粒は、次第にその量を増やした。 既に濡れていない所などなくなった大きなガラスに張り付いては、名残惜しそうに筋を描いて落ちていく空の涙に、昨夜見たドラマのワンシーンがなんとなく重なった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加