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生徒が全員各クラスを出たことを確認した担任が、続々と職員室に集まってきた。
簡単な会議をして、順次解散となった。
体のいい言い訳をして、校内に残ることを告げた田渕に、教師陣はどこかしら安堵の表情を見せた。
自分が一番最後になるのは避けたい、その一心だろう。
教室回りや、教職員棟の窓の施錠は終わっている。
体育館も教諭が閉めてきたと報告があった。
生徒用昇降口を施錠するとなったとき、田渕は準備室に戻ることを理由にそれを買って出た。
下駄箱に唯一残る結衣の下足を、どうにか生物準備室に運ばなければならない。
昇降口は結衣が出るときは開ければいいし、最悪、荷物の搬入のためにある理科棟の裏口を開ければ、外に出してやれる。
田渕は苦笑した。
甘いな、俺も
それがどれほど危険なことか、田渕とて重々解っている。
事実、何の疑いもなく愛らしい笑顔を向ける結衣に、蓋をしてきた欲望が鎌首を持ち上げてきているのを時々感じるからこそ、それをねじ伏せる強い意識を田渕は強要されていた。
真っ当に積み重ねてきた教員としてのキャリアも、今後の人生もご破算にしてしまう破壊力だ。
その危険性がありながら、田渕は結衣を準備室に入れた。
俺が理性を保てばいいことだ、理由はちゃんとある。
見つかっても厳重注意で済むだろう。
自分にも甘い言い訳を胸に、田渕は下足箱を確認して結衣のローファーを指先にひっかけると、理科棟へ向かい始めた。
誰一人いない玄関ホールに、田渕の響かせるスリッパの音と、風の轟きだけが反響した。
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