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「おかしいわねえ……」
どういう事だろうか?
疑問に当然答えは無く、看護師は持ち主不明のそれを手にしたまま病室を出ていってしまった。
溜息をひとつ落とし、身体を後ろに倒してベッドに身体を預けた。
病院の固いベッドでは、不安も混ざりうまく心を落ち着けない。鬱々とした気持ちが少女の胸を支配していく。
「……パパ」
いつ、目を覚ましてくれるのだろうか。
……目を、覚ましてくれるのか。
チューブに繋がれた父が、人工的に無理矢理生命を繋いでいるだけのような気がして、ただただ恐ろしい。
もうあのまま目を覚ます事のない身体をああして生き永らえさせているのではないだろうか。
……母の、ように。
「俺の靴どこやったんだよ」
「ッ!?」
たった一度の、ほんの一瞬のまばたき。
その間に、少女の目の前には再びあの"もや"がいた。
目の奥がちかちかと明暗を繰り返し、意識が薄らいでいく。
だが、その"もや"は少女が気を失うのを許しはしなかった。
きゅっと頬を摘まれ、少女はじたばたと暴れた。
人間の体温ではない。けれど、無機質な冷たさでもない。
ぬるい、という表現に値する体温のようなものが"もや"の指先から伝わってくる。
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