5人が本棚に入れています
本棚に追加
「にゃ、にゃに」
「毎回毎回俺見る度にぶっ倒れやがって。いい加減傷付くっての」
「ご、ごめんなさ」
あうあうともがく少女の頬を引っ張るだけ引っ張って満足したのか、"もや"は目を細めてゆらりと上昇していく。
同時に、腹の上に乗っていた僅かな重みが消え去ったのにも気付いた。どうやら、腹の上に乗られていたらしい。"もや"の下半身がどうなっているのかは、よくわからないけれど。
「ゆ、ゆ、ゆうれい?」
「それよりも言う事あるだろ」
「へっ?」
幽霊(と思しきもの)を前に、怯えるより先に言う事とはなんだ。目を見開いて後退りをした少女に、"もや"はぐんっと顔を近付けてきた。
「ありがとうを! 3回!」
「え?」
一昔前に流行った曲のタイトルのような言葉を、少女は脳内で反芻した。
けれどどれだけ考えてもその言葉の意図は読めず、眉間に可愛らしい皺を刻み、小首を傾げた。
途端に、"もや"が「だはぁ~」と言葉なのかただの吐息なのか判らない音を漏らした。
「事故った時とさっきぶっ倒れた時、そんで靴についての礼だ」
「はあ……」
「はあじゃねえよ。礼を言えっつんだ礼を」
神秘的というか現実味のない身体(?)から発せられる人間味あふれる物言いに、少女は思わず吹き出した。
ギャップがひどいと笑い続ける少女に"もや"は何度も「笑うな」と怒鳴りつけてきたが、姿が見えないせいでどんな表情をしているのかもわからないし、白いふわふわしたその身体に怒り狂うわたあめを連想させ、その意味のわからなさに彼女は声を上げて笑い続けた。
最初のコメントを投稿しよう!