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何を言っても笑う少女に呆れたのか諦めたのか、次第に"もや"も笑い声を零し始めた。
その声は喋る時よりもずっと幼く感じられ、少女は見えない"もや"相手に心が擽られた。
「……ありがと」
「お、おう」
「靴も、ありがと。でもあれ、ちょっと汚すぎ」
「う、うるせー!」
怒声とともに"もや"の頭部らしき箇所からポー!と湯気が立ち上り、少女はついに腹を抱えて笑った。
息も出来ないほどに笑う少女の頬を拗ねたように抓り、"もや"はぬるい息を吐いた。
「おい」
「はい」
「親父さんが目を覚ましたら言っとけ。あそこは、もう通るなって」
「どうして?」
ゆらり、と"もや"は揺れ、先ほどよりもずっと落ち着いた声音で続ける。
「どうしても、だ。あそこはお前たち人間には危険だ」
「もやさんは人間じゃないの?」
「もやさんて何」
「名前知らないから……」
ちろ、と大きな瞳は"もや"を見つめている。
口を尖らせているのは、どういう心情からなのか――少女の思惑が読めないまま"もや"はたじろぎ、逃げるように後方へと飛んでしまう。
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