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「あっ」
「なま、名前なんて無い、から好きに呼べばいい」
「ほんとに?」
「ああ」
「んーじゃあ、わたあめくん!」
長いしださいし食べ物じゃねえかという理由で即座に却下され、少女は俯いて真剣に考え始めた。
その隙に、と病室から姿を消そうとした"もや"を、少女は慌てて呼び止めた。
「白……シロ君! シロ君はどう?」と性急に問い掛けて。
満面の笑みで問いかける少女の前から、"もや"は姿を消した。
「いい趣味してんじゃん、……津由」と、細く小さな囁きを残して。
「……私、名前教えたっけ……」
病室には、少女――津由(ツユ)の呟きだけがじわりと響いた。
"もや"の答えは是なのか非なのか――わかりはしなかったが、少女は高まる鼓動を両手で抱き何も残ってはいない天井を見上げてゆっくりと時間をかけて息を吐き出した。
ほんの少しだけ、思いつめていた気持ちが楽になっている事に気付いて。
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