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「ッ、パパァ!!」
そこらじゅうに散らばった車の破片。
ぶすぶすと不穏な音を上げながら黒い煙を吐き出す小さな炎。
そして、車体に挟まれ大量の血を流す最愛の父。
そうだ、父は、事故を起こしたんだ。この降りやまぬ雨のせいで。
ゆるやかな坂道にさしかかった時、滑る地面にハンドルを取られ、ガードレールを擦りながら2回転ほどスピンをし、街灯に車体の腹が思い切りぶつかり横転した。
ワンピースを染めた赤が父のものであると確信し、少女は無傷である己の運の良さを呪った。
「パパ……パパァッ!!」
今日は午後から豪雨が襲うとニュースで言っていた。知っていたのに。なのに、いつも我がままひとつ言わずに仕事を終えるのを待っているのだから休日くらいいいじゃないか、と駄々を捏ねた。
困ったように笑う父の瞳が疲れでくぼみ、うっすらと隈ができている事も、知っていたのに。
父が頷くまで、我がままを言い続けた。絶対に今日、必要なんかじゃないのに。なにも豪雨のなか買いに行かなくてもいい物なのに。ずっと、「新しいノートが欲しい」と言い続けた。
「パパ……パパ……ごめんなさ、ごめんなさい!!」
『連れってってくれないと、パパの事なんで嫌いになるから! 口も聞いてあげないんだから!』
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