【黒雨の慟哭】

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 いつも仕事ばかりで構ってはくれない父が必死になって機嫌を取ってくるのが嬉しかった。だから、つい、我がままを言ってしまった。言ってはいけない事も、言ってしまった。 「誰か、誰かぁっ! 誰か助けて! パパがっ……!!」  血塗れの父は意識もなく、雨で血がどんどん流れていく。腰を挟んでしまっている車体は少女が力いっぱい押したり引いたりしてみてもピクリとも動かなかった。  朝から降り続ける豪雨のせいでまだ昼間だというのに辺りは薄暗く、人通りは全くと言っていいほどない。  近くには廃屋と背の高い木ばかりがあり、民家も見当たらない。  土気色の父の顔に触れてみれば浅い呼吸を繰り返してはいるものの、ひやりと冷たくその命は風前の灯のように感じられた。 「パパ、パパぁぁっ!!」  涙と、雨と、父の血で頬を濡らし、少女はひと際高い叫びをあげた。 「……ったく、うるせぇなー……昼寝もできやしねえ」  ぽつり、と耳に届いた悪態。  涙と雨で濡れそぼった髪を振り、辺りと見渡してみるが相変わらず人一人居やしない。ぶるる、と身体を震わせかぶりを振ると、意識のない父の肩を揺すった。  ――怖い。このまま、二度と目を開けてくれなかったらどうしよう。このまま、この世界にひとりきり取り残されてしまったらどうしよう――。 「ひとりに……ひとりにしないで……パパぁ……」  いいようのない不安が少女を襲い、冷え切った身体は寒さでない冷たさでがたがたと震えた。
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