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◆◇◆◇◆
「どうですかね、あの子は。先生」
「何とか泣きつかれて眠ってはくれたが、次に目を覚まして同じような状態になるのなら、鎮静剤を打たざるを得ないかもしれん。父親も命の危険は脱していないし、彼女も軽いとはいえ傷を負っている。それを治療するほうが優先ですよ」
――刑事さん。
白髪混じりの髪に、疲れで少し窪んだ目。そして、真っ白な白衣の初老の医者は隣に立つ中年の男をじとりと見た。
男はいつものように口に咥えようとしていた煙草を「おっと、失礼」と耳にかけ、にへらと笑った。
「また、"あの場所"ですか」
「話が早くて助かる。どちらかでいい、目が覚めたら連絡してくれないか」
「刑事さん。治療が優先と……」
「わかってる、わかってるって。だが、こっちも切羽詰ってるんだよ。こうも立て続け事故られちゃあ警察も民間人の苦情の対応に追われてんだ」
くたびれた茶色のコートの胸元から使い古した手帳を開くと、刑事は医者に見せ付けるようページを開いた。
文字とは到底いえないような走り書きが乱雑に書きなぐられ、医者は視線で「読めない」と非難した。
だが、刑事は気にした様子もなく右端に書かれた汚い文字を差して、持っていたボールペンをがりりと噛んだ。
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