空井星歌取扱説明書

10/19
前へ
/19ページ
次へ
 伊田はサークル内でも浮いた存在だった。20人を超える我がテニスサークルでは、その中でもさらにいくつかの仲良しグループに分かれている。  伊田はそのどのグループからもはじき出されていて、いつも独り言をブツブツと呟く、キモチワルイやつだ。  あいつが犯罪を犯したら、きっとサークルメンバー全員が「いつかやると思っていました」と答えるような人間だ。 「分かった。あいつのことは俺がなんとかしてやる」  決意の宿った瞳で、俺は星歌を見つめる。目が合う。彼女の潤んだ瞳が見つめ返してくる。 「頼っても良いの?」 「もちろん。俺はお前の彼氏だぜ」 「……うん。ありがとう」  星歌は安心した表情を浮かべ、幸せそうな吐息を漏らす。彼女の心が、俺に寄りかかってくるのを感じた。  俺はそれを抱きとめる。彼女が自分を頼ってくれることに対する嬉しさと、それに絡みつくような罪悪感。  100%の愛情を伴っていない自分の発言が、俺の首を絞める。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加