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その後、カラオケボックスで彼女のはつらつとした歌声を聴いて、早いけど今日はこれで解散しようということになった。
「ごめんね、今日は。公務員試験の勉強で忙しいってのに」
「いや、大丈夫。こっちこそごめんな、最近かまってやれなくて」
ううん、と星歌は首を振る。
「仕方ないよ。弘樹の将来のためだもん」
それに、と続ける。
「今日は悩み聞いてもらってスッキリした。ありがとうね。本当はもう一個あったんだけど……」
「なに? 聞くよ」
「いや、大丈夫。私の話を真剣に聞いて、私のために怒ってくれる弘樹を見たら、どうでも良くなっちゃった」
「それなら良いけどさ、遠慮はするなよ?」
「そんなんじゃないって。じゃあね、弘樹」
名残惜しそうに手を振る星歌に、俺も手を振り返す。彼女の姿がマンションの中に消えていくのを見届けると、俺はスマホを取り出して電話をかける。
『もしもし』
「俺。今から家に来い」
返事を待たないで切る。画面には、12桁の番号しか表示されていない。
そうか、あいつの名前って伊田圭吾だったんだな。
「興味ねぇから覚えてないっつうの」
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