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久しぶりのデートだというのに、星歌は最初から浮かない顔をしていた。
無理に笑おうとしているのが、女性の心情の機微に疎い俺でさえも瞬時に分かってしまうほど、その様はぎこちなかった。
「よ。……星歌、どうかしたん?」
ひんやりとした風が吹く。大学前の道路は、赤く色づいた紅葉で埋め尽くされていた。
「あ、弘樹。ううん、なんでもない。大丈夫」
待ち合わせ時間より15分も早く着くようにしているのに、星歌はいつも俺の先を越す。
鮮明な赤の中心に彼女がポツンと佇む姿は絵になった。星歌は孤独の方がよく似合う。そう思ってしまうほどに。
「俺の前で無理なんかすんなっての。どーせまた甘いもん食いすぎて太ったとかそーいうのっしょ?」
「……弘樹サイテー。デリカシーなさすぎ」
そう言って、ヒールをコツコツと鳴らせながら大股で歩き出す。その不必要に大きな音が、星歌の感情の高まりを表していた。
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