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やっべ。不正解だったぜ。
「ちょお、待てよ」
俺は慌てて星歌の背を追う。コツコツという音に合わせて、彼女のつやつやとした黒い髪がふわふわと上下に揺れている。
近づくと、キノコみたいな髪のてっぺんに、赤い葉っぱが乗っているのに気づいた。
星歌は今日ヒールを履いているから、彼女の頭が俺の目線のすぐ下にある。葉先に向かう5本の線と、それらを連結させる網目状の葉脈までもが、くっきりと俺の視界に映っている。
「もみじ、乗ってんぞ」
そう言って取ってやっても、星歌は返事もしない。はぁ、とため息をついて星歌に並び、そのまま無言で彼女と連れ立って歩く。隣に立つと、かぎ慣れた彼女の匂いがした。
「美容院、昨日行ったんか?」
返事はない。覗き見防止用に植えられた木々で見えないけど、車道の反対側には幼稚園か保育園があるらしく、幼い子供たちの騒ぐ声が聞こえている。
車道を走る自動車の、タイヤと路面が擦れる音と相まって、会話はなくとも周囲は騒音で満ちていた。だけど音にはならない、空気の沈黙が俺と星歌の気まずさを浮き彫りにする。
息苦しさに耐えていると、俺が偶然にも車道側を歩いていたことに、突然気づいた。
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