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数分後、星歌が「よしっ」と言ってバッグにスマホをしまうのを待って、俺は切りだした。
「で、星歌。最近なんかあったのか?」
カラン、とグラスの中で氷が音を立てた。星歌はどんなに寒くてもケーキにはアイスコーヒーと決めているらしい。
彼女が『borne』で熱いコーヒーを頼むのを見たことは一度もない。
「えっと」
星歌が目を伏せる。今日最初に会ったときの沈んだ表情がずっと気がかりだった。嫌な予感に胸がざわついて落ち着かない。誰かに首を絞められているような息苦しさ。
「言いにくいようなことだったら無理には訊かないけどさ、何かあったんなら俺には遠慮せずに言ってくれよ。俺ホント馬鹿だからさ、言ってくれないと分かんないんだ」
それに、と付け加える。
「俺はお前の彼氏だから、星歌のことが心配なんだよ」
言い切った。我ながら恥ずかしい台詞だった。喉がやけに渇いていて、カップを口につけて傾ける。でも、白色のカップの底が見えるだけで、喉を潤してくれる液体はどこにもなかった。
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