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しばらくの沈黙。星歌が何を考えているかは分からないけど、この沈黙はさっき道路を歩いていたときのものよりも少しだけ甘さを含んでいた。
きっとここが、たくさんのケーキを売っている場所だからだろう。
「あのね」
星歌が躊躇いを含んだ声で俺に告げる。
「自意識過剰とか思うかもしれないけど、実は最近、誰かにつけまわされている気がするの」
心臓が止まるかと思った。一瞬体温が0℃になったかのような錯覚がして、数秒後には沸々と怒りが湧いてきた。
「……それって、ストーカーってやつ?」
感情の揺れ動きをできるだけ抑えた声で星歌に問うと、彼女はおずおずと頷いた。
「たぶん、そうだと思う。学校へ行くときとか、スーパーで買い物して帰るときとか、ひどいときは講義中に視線を感じるの」
星歌の声も、身体も震えていた。俺は膝の上で拳を握りしめる。
「それでね、この間家に帰っている途中、怖かったけど、ストーカーの顔を見ようと振り向いてみたの」
「で!? そいつは誰だった!? 知ってるやつか!?」
「ちょ、ちょっと、弘樹、落ち着いて」
思わず立ち上がっていた。椅子を引くときのガラッという音で店内の注目を集めてしまったらしい。
「すみません」と頭を下げて座りなおす。
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