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「……で、そいつは誰だった?」
深呼吸。誰に聞かれているわけでもないのに、ひそめた声で星歌に問う。
「うん、暗くて良く見えなかったんだけど、あれは伊田くんだったと思う」
「伊田……」
「知らないの?」
「いや、どうだろう……どんなやつ?」
その返事に、星歌は何故だか深くため息をつく。
「同じサークルの人だよ? 伊田圭吾くん。ひょろ長くて、黒縁眼鏡かけた1年生」
「ああ、やっぱりあいつか。……どうにも、顔と名前が一致しないのよ。俺」
「もう、弘樹ってば、興味のないことは全然覚えないんだから」
クスクス、と星歌が笑う。できの悪い息子を眺める姉、あるいは母を思わせる表情だった。
伊田圭吾。さっきからずっと握りしめていた拳。俺はあいつを、これで思いっきり殴りたかった。
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