第6章

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「美味い…」  これはもう、ベレンの老舗のナタと比べても遜色ない味に違いない。  卯藤がこの街でずっと努力を重ねて来た証だ。全く、大した奴だと思う。  ベンチの目の前からは古ぼけた家々の屋根が見える。  あの向こうにはテージョ河が広がっているだろうか?  卯藤の店は夏の繁忙期以外は日曜休みだと言っていたから…  日曜になったら、また二人でリスボンの街を歩こう。  まだ行ったことのない場所…夏がはじまる頃には、一緒にジャカランダの花も見に行こう。  あるいは、かつて一緒に歩いた場所も…  そして、二人の記憶の欠片を一つずつ拾い集めて、アズレージョで飾るように繋ぎ合わせていけば…  きっと、美しい絵が描けるだろう。  完
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