第1章

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「片岡さん」  名前を呼ばれて我に返って振り向くと、ここで待ち合わせの約束をした人物が立っていた。黒髪で髭が濃く、背は余り高くない。いかにもラテン系の男の顔だが口調は穏やかだ。 「やあ、どうも…すみません。こんなところへお呼びだてしてしまって」  片岡、と呼ばれた男は流暢なポルトガル語で一言詫びると、手元にあったカップの中身を一口飲んで、食べかけていた菓子の残りを頬張った。 「奥のテーブルへ行きましょうか。 あなたもナタを如何です?俺もあと一つ二つ追加しなきゃ」 「頂きます。この店のナタを嫌いなリスボンっ子なんていませんよ」
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