第1章

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 見覚えのある風景だった。    そうだ。  あの時も今日と同じ晩秋の午後だった。  午前中は雨が降っていたが午後から上がって…二人で歩いた階段が濡れて鈍く光っていたのを覚えている。  迷路のように狭い路地の間から海のようなテージョ河に沿う丘に無数の建物が密集した広大なパノラマを眺め、坂道を下ればすぐに河岸が見えてくる。  どれだけ廻り歩いても飽きない空の下の迷宮。  あいつはこの街並をとても気に入っていて、できればアルファマに住んでみたいと言っていた。でも俺は、「ここじゃ仕事に通うのが不便だ」と…
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