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けれどその呟きさえかき消され、尚も勢いを増すお祝いムードに圧倒される。完全に空気になった敦己は目を虚ろにし、
「わけ分かんねえんだよ畜生ぉおおッッ!! リア充爆発しろ!!」
涙ながらの奇声を発しながら校長室を飛び出した。宝探しをクリアしたおかげか、校舎のサイズは元に戻っている。難なく外に出ることの出来た敦己は肌寒い夜空の下を歩き出した。ポケットに手を突っ込んで月を見上げる。そんな敦己の隣に音も無く並んだ姫野。
「敦己……と言ったな」
「うわ! び、びっくりした。姫野か……」
「一つ聞いていいか」
相変わらずのポーカーフェイスで敦己を見つめた。
「私はどうしてこんな所にいるのだろう」
「…………そこからか」
"今さら"な疑問を掲げて首を傾げる彼女を目の前にした敦己はなんとなく思い出す。放課後にハロウィンパーティーをやろうと準備していたとき、教室の端の机に突っ伏して眠る姫野の姿があったことを。
「そういえばお前、あの時教室で寝てたからな。俺らと一緒の扱いだったんだろうな」
「は?」
「いや、なんか説明すんのが面倒くさい」
「そうか。ならば良い。私も早く帰って眠れればそれでよし」
「まだ寝んの!? あんなにずっと寝てたのに!?」
「私から眠気を奪えるのは体育の時間だけだ」
「お、おう。そうか……」
「時に敦己」
「なに」
「私もお前の事が好きなんだが……」
「はい!?」
「冗談だ。だいいちまともに喋ったのも初めてだしな」
「あ……、そうっすね」
何を考えているか分からない姫野と、わけも分からず振り回される敦己。奇妙な組み合わせの二人組が校舎を後にする。
────────
そんな二人を校舎の屋上から見守る人影があった。全身黒のマントに身をつつんだ男。屋上の柵に座って足を組んだ彼は、校長室から漏れる明かりと去っていく二人の背中を交互に見やって笑みを浮かべる。
彼は鳩朔高校の教頭を勤める男。
──またの姿を、"ハロウィンの奇跡を授けし者"。
人間の日常に紛れて過ごす彼は、目をつけた若者の幸福を願ってひっそりと奇跡を起こす。
「青春せよ。若者よ」
人間社会のストレスによりすっかり薄くなった髪を靡かせ、股間に手を突っ込む彼。そこから小ぶりのジャック・オー・ランタンを二つ取り出す。
柿で作られたそれを見つめ、月に向かって微笑んだ。
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