第1章

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目を覚ました時。 彼等はすでにそこに居た。 「ちょっと敦己(あつき)。起きなさいよ」 「んあ?」 肩辺りまでの前下がりボブを揺らし、最初に目を覚ました女は「ケイ」。切れ長の瞳の目尻を不安げに垂らし、すぐ隣で寝息を立てていた男を揺り起こした。 だらしなくヨダレを垂らしながら起き上がった男は「敦己」────愛称アッくん。三白眼を細めて不機嫌さを醸す彼は、少し短めの黒髪を乱暴に掻き毟る。 「なにココ。どこ。なんでケイがいんの?」 「学校みたいだけど……よく分からないわ」 「はあ!? 学校!?」 一瞬にして吹き飛んだ眠気。思わず大きな声を発してしまえば、敦己の後ろで何かが動いた。 「う……ん。うるさいなあ、もー」 ゆったりとした喋り方とともに半身を起こしたのは、黒と赤のツートンカラーにツーブロックという派手な髪の男────「友也(ともや)」。 「あれっ? ケイちゃんにアッくんじゃん! なにしてんのー?」 「知るか。なんか目が覚めたらここにいた」 「えー!? 何それ!」 時刻はもう真夜中であろうというのに、自宅で眠りについたはずの彼等はなぜかこの場で目を覚ました。場所は彼等の通う私立鳩朔高校だ。その一階廊下のど真ん中。月明かりだけが差し込む薄暗い空間で、座り込んだ床がひんやりと冷たい。 そして段々と暗闇に慣れてきた瞳が辺りの景色を映し出した時、三人は初めて気付いた。後方で堂々と寝息を立てる美少女の存在に。 しっとりとした黒のストレートヘアを床に泳がせ、うつぶせの状態で眠りこけている。 「……あの爆睡女は誰」 「こら、アッくん。女の子にそんな言い方しちゃ駄目でしょ」 「確か姫野さんね。ほら、窓際の一番後ろの席でいつも寝てる……」 「あー、なんか体育以外は全教科寝て過ごすって噂の」 つまりこの場にいるのは全部で四人だ。 「だあああ、畜生! っんとに意味分かんねぇ!」 「なにかしらね。夢、というわけでも無いようだし」 「そのとーーーり!」 ケイの言葉に被せてきた軽快な声。嫌に耳につくその声の発生源へ振り向くと、四人は思わず言葉を失った。目線の先に居たのはまさに「ジャック・オー・ランタン」。オレンジ色の頭に描かれた顔は、三角の瞳につり上がった口角。その一つ一つが愉快気に歪む。 ただひとつ違和感があるとすれば、目の前のジャックの体長が三十センチほどしかない事だろうか。
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