第1章

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不審の眼差しを向けられる事は若干の屈辱だが、今の敦己はあの光景を無かった事にするだけで精いっぱいだ。「僕も見たい」と開けようとする友也を制し、次の教室へ向かった。順当に行けば家庭科準備室だが、鍵が閉まっていたためひとまず後回しにする。それにより辿りついたのは保健室。今度は平等に、三人同時に扉を開けた。中に居たのはやはり三十センチサイズの人間が二人。体操着姿の女子に、保険医と思しき中年男性だ。 「おやおや、擦り剥いてしまったんですか」 「はい。さっきの体育で……」 体育というワードに姫野の身体がピクリと動く。驚く三人だが、反応を見せただけの姫野は再び眠りはじめた。 「どれ。ああ、膝小僧だね。これは痛そうだ。消毒から始めよう」 そう言って脱脂綿に消毒液を染み込ませる保険医。今にも滴りそうなそれが女生徒の膝に触れた途端、女生徒の身体が飛び跳ねる。 「やっ、ああ! 優しく! 優しくして下さい」 「大丈夫。乱暴にはしないよ」 「ん……っふ、あ。やだ、なんか……」 「そう、力を抜いて。もう少しだ」 「待ってなんか……なんかクる! キちゃう! あ……ああ! 消毒液が!」 頬を紅潮させ、太ももをすりよせて何かを耐える女生徒。潤む瞳を保険医に向け、火照った唇をふるわせる。 「消毒液が!! ソックスに垂れちゃうのおぉお……っ!!」 そして縋るように保険医の白衣を握りしめた。保険医はそんな女生徒に微笑みかけ、左手に準備していたティッシュペーパーを見せつける。 「安心して下さい、拭いてますよ」 ──────── 無言で扉を閉める三人。 「何よあれ」 「ほらな! ほら! なんとも言えない気持ちになるだろ!?」 「あんな感じのを一人で眺めたアッくんのメンタル、僕尊敬するよ」 スタスタと先へ進む三人は随分と狭さに慣れてきたようだ。ただひとり、若干猫背にならないと天井にぶつかる敦己だけが苛立ちを募らせる。 「もうとっとと宝部屋見つけてアイツ干し柿にしてやろうぜ。次どこ。ここか?」 「あっ、ちょっと! そんな不用心に……」 勢いに任せて開け放ったのは多目的室。どうせまた訳の分からない茶番が繰り広げられているのだろうと予想していた敦己だが、ドアを開けた瞬間に轟いた破裂音に腰を抜かした。ケイ、友也も目を丸くし、姫野は相変わらずいびきをかいている。
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