キチノイロ

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「……痛っ!」  やっちゃった、と思ったときには包丁を手放していた。  もぉ、これだから家庭科の調理実習ってキライ。  料理なんかロクにしたことのないのに、案の定、にんじんではなく自分の指を切ってしまった。 「だっ、大丈夫!? 藍音〈らんね〉ちゃん!」  同じ班の子が心配そうに聞いてくる。  家庭科担当のタカちゃん先生も、慌てた様子で駆けつけてきた。 「どうしたの、川会〈かわえ〉さん」  先生が眉を寄せて、あたしの方に手を伸ばしてくる。 「指を切ったの? ちょっと見せて」 「ーーっ!」  パン!  ……思わず、  先生の手、振り払っちゃった。  音の意外な大きさに、クラス中の注目がこっちに集まった。  じゃがいもの皮を剥いていた男子、たまねぎに泣かされていた女子、お肉を切っていたクラス委員、ガス式炊飯器のガスの元栓を開ける隣の班の子、カレールーの準備をしていた同じ班の子の双眸が、一斉に向けられる。 (しまった!)  指を切ったときより、あたしは焦った。
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