2人が本棚に入れています
本棚に追加
「……痛っ!」
やっちゃった、と思ったときには包丁を手放していた。
もぉ、これだから家庭科の調理実習ってキライ。
料理なんかロクにしたことのないのに、案の定、にんじんではなく自分の指を切ってしまった。
「だっ、大丈夫!? 藍音〈らんね〉ちゃん!」
同じ班の子が心配そうに聞いてくる。
家庭科担当のタカちゃん先生も、慌てた様子で駆けつけてきた。
「どうしたの、川会〈かわえ〉さん」
先生が眉を寄せて、あたしの方に手を伸ばしてくる。
「指を切ったの? ちょっと見せて」
「ーーっ!」
パン!
……思わず、
先生の手、振り払っちゃった。
音の意外な大きさに、クラス中の注目がこっちに集まった。
じゃがいもの皮を剥いていた男子、たまねぎに泣かされていた女子、お肉を切っていたクラス委員、ガス式炊飯器のガスの元栓を開ける隣の班の子、カレールーの準備をしていた同じ班の子の双眸が、一斉に向けられる。
(しまった!)
指を切ったときより、あたしは焦った。
最初のコメントを投稿しよう!