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そして。
”それ”は、そこにいた。
薄暗い部屋の中で何かを一心に貪る”それ”の後ろ姿は、痩せ細った成人男性程の体格だった。
だが、青痣の様な斑模様の体色に、節々が鋭利に隆起した骨格、その眼光は青白く、口元から覗く牙は顎の下まで伸びていた。
物音に気付いた”それ”が、こちらへと振り向き、視線が合う。
……今でも、その時の事をはっきりと覚えている。
まるで人間の様にニヤリと卑らしく口角を上げ、高笑いながら自分には目もくれず飛び去る”それ”。
その後ろ姿を呆然と見送りながら立ちすくみ、近くまで迫ったサイレンの音に我に返って安堵した自分。
そんな自分に対する、激しい嫌悪感。
これは、俺が”主人公”になるまでの話。
これが全てのはじまりだった。
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