これが全ての始まりだった。

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 その日、私はいつもの様に憂鬱な気分だった。執筆している推理小説の締切を迫る電話の対応に追われていたからだ。  一つの出版社との話が終わる度に、また別の出版社より電話がかかってくる。そのやり取りは日常茶飯であり、日頃から私の頭を悩ませている。  この時も自室の机に向かいながら、鳴り止まない電話に四苦八苦していた。  「はい、そちらの原稿は終わり次第にお届けいたします。」  そう言って、電話を切る。ゆっくりと座椅子の背もたれへ寄りかかり、私は一息吐いた。  視線の先には真っ白な原稿用紙があり、愛用の万年筆が無造作に置かれている。  文字を書こうとして手を伸ばすも、躊躇してしまう。  私は項垂れながら、  「あー、どうすればいいのだ。」  と呟き、頭をかきむしる。  すると、襖が開けられる音がした。  とても勢いのよい音だった。27年間にこの家に住んでいる私の中では、こんな不躾なやり方をするのは、同居しているあの少女しかいないと思った。  「部屋に入るならノックして下さいと、言っているでしょう。」  私は少し強めの口調で言った。  襖から入ってきたのは、やはり私の思ったとおりの少女だった。
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