ハガキの宛先は郵便番号

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冬の日差しが教室の奥まで差し込んでいる。 それを例にとり、地学の教師でありクラス担任である桑原が地軸について説明していたが、いつものごとく白熱し、脱線し、最終的に「俺たちは地球の上で生きるしかないんだ!」と結論付けた。 しばしの静寂。満足したのか桑原はひとり頷いている。 カリカリとノートをとる音が響く。きっとクラスの三分の一は『地球の上で生きるしかないんだ!(笑)』とか書いているに違いない。 「・・・中村くん、ちょっと消しゴムかしてくれない? 忘れちゃって」 隣の席の女子、立花さんが小声で話しかけてきた。 突然のことに「ほっ?」という変な声が出て、そのことに焦った俺は消しゴムを反射的に差し出した。 「ごめんね」 立花さんはキュートに手刀を切り消しゴムを受け取った。 こういうとき、なんて言うんだ? 今まで話したことのない女子から唐突に消しゴムかしてと言われたときは。 「いいよ」だと、上からじゃないか? 「どうぞ」か? いや、丁寧すぎるか。 「さぁ、おひとつ」・・・? あ、「半分にするからそれ使えばいいよ。」  これが良かったか? そしたら「僕の顔を分けてあげよう」と餡パンマン風に言えば笑ってくれたかもしれないな。 ・・・ああ、時間さえくれれば少しは気の利いたことも話せるのに。 そんなことを思っていたら、消しゴムが戻ってきた。 「ありがと」 「・・・えぇいや」 結局俺が言えた言葉は「ほっ?」と「えぇいや」。 立花さんはきっと休み時間に友人に消しゴムを借りるだろう。 そして今後俺に話しかけることもないだろう。 嗚呼。
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