ニ、彼岸花

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彼岸花の汁の効果が覿面すぎたのだ。 まずロッカーのノブを握った茉莉の右手がかぶれた。次に右手を掻いた左手が。そして、パニックになって両手で顔を覆って泣いたために顔中が赤く爛れた。 騒動を聞いて駆けつけた先生達と誰かが呼んだ救急隊が応急措置を始めた頃、私は心の中でほくそ笑んでいた。でもそれは表に出さず、担架で運ばれている茉莉に駆け寄り彼女の手を握り言葉をかけた。 「大丈夫?」 茉莉は取り乱していたが自分の手を握る私の手を見て一瞬、目を見開いた。でも何も言わなかった。そしてそのまま病院に運ばれた。 彼女が救急車に乗せられた時、自分の手にむず痒さを感じて確認すると少し赤くなっていた。でも、茉莉の手を握ったせいだろう。邪魔者がいなくなった高揚感で手の痒みも、茉莉が病院に入院したことへの罪悪感も気にならなかった。 これが、十日前の話である。
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