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三、傷痕
二日後に学校に出てきた茉莉の姿は異様だった。トレードマークのポニーテールはせず、セミロングの髪と大きなマスクで顔を隠し、10月とはいえまだ暑い日が続いているというのに間服の上から黒いカーディガンを羽織っていたのだ。以前の明るい挨拶もなく、自分の席につくとそこから動くことはなかった。
それを見た私は、マスクに隠された顔やカーディガンに隠された両腕が気になって仕方なかった。醜くなった茉莉を見たかったのだ。
昼休みになったが幸いなことに茉莉を見る者は誰もいなかった。というより、触れてはいけないモノとして見て見ぬふりをしていた。だから、私が一人で教室を出ていこうとした茉莉を追いかけてドアの近くで彼女の背中をそっと押したのに気付いた者はいなかった。
バタンと派手な音をたてて転んだ彼女にクラス中の視線が集まる。
私は慌てて彼女を助け起こすフリをして後ろからカーディガンの両袖を引っ張った。それと同時に彼女のケロイドだらけの腕があらわれ、クラスに嫌悪の声がわいた。
醜くなった茉莉を見て心のなかで歓喜した。でも、表情は崩さずに、「茉莉、大丈夫?」と言いながら助け起こすフリをして、片方の耳をさわりマスクをずらした。するとケロイドだらけの顔が露になる。クラスの中の嫌悪の声がいっそう強くなる。
「気持ち悪~」
「お化けみたい」
「昼時にそんなの見せるなよ」
茉莉は何も言わずに立ち上がると走って出ていき、二度と教室に戻って来なかった。彼女の荷物を放課後母親が取りに来てそれっきり学校に来なくなったのだ。
思えば、その頃から変な夢を見るようになった気がする。
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