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「王子先輩!」
いきなり花園さんの声が教室中に響いて、ちょうど花園さんのことを考えていた僕はビクリと肩を震わせる。
ドアの方を見たら、笑顔の花園さんが僕に向かって大きく手を振っていた。
最初こそ、その光景にざわめくクラスメイトたちだったが、1ヶ月も続けばそれは日常と化していた。好奇の目で見られていた花園さんは、今では僕のクラスメイトとすっかり仲良くなって……ほら、今だってお菓子とかもらってるよ。嬉しそうに、たけ○この里頬張ってるよ。ちなみに僕はき○この山派だ。
「うわ、ガチで王子とか呼ばれてやんの。羨ましいなぁ、チクショー」
大輔にガツガツと足を蹴られて、逃げるように僕は席を立った。
花園さんのところに行くと、彼女は笑みを深くして、口の中のものを飲み込んでから、カバンから可愛くラッピングされている小袋を取り出した。
「王子先輩のためにガトーショコラ作ってきました!どうぞ!」
「ありがとう」とお礼を言って受け取る。彼女にガトーショコラが好きだって言った記憶はないんだけど……。
よく彼女は、話してもないのに僕の好きなお菓子や僕の歌手のアルバムなんかを持ってくることがあった。誰かに聞いたのだろうか。
せっかくくれたのだからと笑顔で受け取るけど、そのたび僕は、不安でいっぱいになる。
そこまで想われるようなこと、してないのにな。
僕はそこまで大した人間じゃないのにな。
だって僕は君の王子様じゃないんだから。
もし本当に、僕が「王子様」なのだとしたら、彼女には、僕の知らない僕が見えているんだろうか。
彼女のその笑顔は、僕を心から思ってくれているものなのだろうか。
ーーーあぁ、そうだ。今はそっちに、僕の気持ちを賭けてみよう。
「お姫様」とあだ名される少女のその笑顔を見ながら、何かがはじまりそうな、そんな期待があることは、まだ秘密にしておくけれど。
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