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殺し屋という職業柄、クロウは全くと言っていいほど隙がない。
さっきのように気配を消して行動するし、たいていは表情が乏しく笑うときは何かとんでもないことを考えているときだ。
しかしナース――――主治医の前では時折こんな風に無防備な姿を見せ、それがナースは嬉しかった。
もちろんクロウが気を抜くのは、契約を交わしたナースになら大丈夫だろうと思っているからで、それが《信頼》とは程遠い響きを持つものであることは心得ている。
だいたい裏切られて寝込みを襲われたところで簡単に返り討ちにできるだろうし、まずそんなことを考えっこないだろうと熟知した上で、彼は自分と契約したのだった。
――――想いが利用されているだけだろ……あんたには何もメリットがないのに
以前言われたチハルの言葉に、ナースは心の中で応えた。
それで今は十分なの。目の前でうたた寝をしているクロウがいるだけで。
「終わったよ、クロウ」
「ん……?ああ……」
小さく声をかけただけで、彼はすぐに意識を取り戻した。
そして、その通り名のごとくボロボロになった黒い上着のまま、ベッドに向かおうとする。
「私、カフェでお昼にしてくるわね」
再度ドアを開けて告げると、彼は足を止めてこちらへと方向転換した。予想外の言葉が飛び出す。
「俺も行く。この一週間、ろくなモン食ってねぇんだ」
ナースは驚いてしばらく目をぱちくりさせていたが、やがて大きく破顔した。
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