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カップに紅茶を注ぎ入れながら、チハルはちらりと少年を盗み見た。
十六歳の彼は向かいに座った母親と一向に目を合わせようとはせず、黙々と昼食を口に運んでいる。
気まずさを表したマミーの苦笑に同様の表情を返したとき、入り口に珍しい二人の姿を見つけて、チハルは声を上げた。
「ナース、クロウ!珍しいな」
「私じゃなくて彼が、でしょ。腹ペコだそうよ、大盛りでね」
「あー、今ちょっと混んでるんだ。悪いけど相席でいいか?」
チハルが訊くと、マミーが「ここに座ってもらったら」と空いている隣の二席を示して提案した。サンに目をやると、パンをかじりながらうなずいている。
チハルはナースとクロウを呼び寄せ、同じ四人掛けのテーブルに座らせた。
「ありがとうございます。私は《ナース》、彼は《クロウ》です」
「どうも」
クロウのつっけんどんな応えに、ナースは顔をしかめた。
「ちょっと、初対面の方にそれはないでしょ」
「うるせぇよ。殺し屋に常識を当てはめようとすんな」
まあまあ、と皿をテーブルにのせてチハルは仲裁に入る。クロウが包帯を巻いた左手でぎこちなくフォークを使い始めると、一気に静かになった。
「私は《マミー》、この子は《サン》といいます」
マミーの紹介に「よろしく」とナースは笑った。チハルは心の中で嘆息する。ティーチャーだけでなく他の住人とも自己紹介を交し、壁を取り除いたマミーの雰囲気に。
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