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ふとナースがサンの手に目をとめた。ハサミか何かでやったのか、手の甲に走る斜めの浅い切り傷。
「怪我してるよ」とその手を取るやいなや、常に携帯している救急セットで素早く応急処置をしてしまった。
あっという間に包帯が巻かれた自分の手をしげしげと眺めてから、サンはぺこりと頭を下げた。
「早いのね、神業だわ」
マミーの称賛に照れ笑いを浮かべながら礼を言うナースに対し、小馬鹿にしたような態度でクロウが言葉を浴びせかける。
「飯のときくらい治療から離れられねぇのかよ」
「ライフワークだもの。体が反応するのよ」
「血に飢えてるってコトか」
「そんな言い方はないでしょっ」
昼食をほったらかしで口論を始めた二人に、再度チハルは止めに入った。
でも知っているのだ。
ナースが笑っていることを。クロウと共に過ごす、なんでもない時間を強く愛しているがゆえの笑顔。
チハルはそっとマミーを窺った。
彼女も一緒になって笑ってはいるが、その瞳は静かにナースとクロウのやり取りを見つめている。そして……サンも同様だった。
「あー、食った食った。次の仕事まで俺は寝るよ」
食事を終えると、クロウが独り言に近い声量で言いながら伸びをした。「はいはい、ベッドメイクするわ」と応じながらナースも立ち上がる。
カフェから立ち去る間際、先ほどとは打って変わって、彼女がさみしげな笑みを自分とマミーに投げてきたことに気づき、チハルは静かにため息をついた。
――――心が痛む、感情
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