epi.3 看護師の正義を測るのは

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「おいチハル。コーヒーセットが1セット足りないぞ」 「え、どこかに置き忘れたかな」 カフェのキッチンで夕食の下ごしらえをしていたら、隣のルシファーにこつんと頭を小突かれた。 ランチのあとにどこへやったかと、あちこちに視線を彷徨わせた結果、ようやく思い至る。 「さっきナースんとこに差し入れしたんだった」 「クロウに寝起きの一杯か。ともかく、回収してこいよ」 追い立てられてカフェを抜けると、チハルは二階の診療所へと階段を上った。 「ナース、悪いけどちょっ……」 チハルは思わず言葉を呑み込んだ。 ナースが夕日に照らされた〈砂漠の果て(デザーツ・エンド)〉の風景を窓から眺めていた。 風になびく砂色のカーテン。遠くから響いてくる喧騒。そしてこの街には似合わない、どこか神聖な彼女の横顔。 白衣が斜光で金色にきらめいて天使みたいだ、とチハルが思ったとき。 「ああ、チハル。ごめんなさい、ぼんやりしてたわ」 不意にナースが振り向いて、優しく微笑した。あわてて首を振り、チハルは忘れていたカップの話をする。 「すぐ持って行かなくてごめんなさいね」 ナースが示したローテーブルにそれはあった。ソーサーにわずかな染みを作って、無造作に置かれていた。ついさっき飲み干したばかりの雰囲気で。
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